H12年入局 香川大学卒業 庄野 和 2009年度 日本足の外科学会 Traveling Fellowship に参加して

はじめに

平成21年11月23日から12月5日まで大阪医科大学の嶋 洋明先生とともに2009年度JSSF - KFAS Traveling Fellowとしてソウル周辺の6施設の大学病院と1施設の一般病院、光州の1施設の大学病院を訪問させていただきました。 また、その期間中に2009 Fall Korean Foot and Ankle Meetingにも参加させていただきました。

わが国の隣国でありながら、韓国を訪問したことは、今回が初めての経験でありました。 韓国というと「儒教の国」「韓国料理」「韓流ドラマ」などといったものが一番に頭に浮かびますが、それ以上のものはなかなか頭に浮かびにくく、隣国であるのにあまり深く知っていることはありませんでした。

今回は医療だけではなく、風土、文化など、様々な事を体験し実感する機会を得ることができるのではないかと、そんな期待を持ち韓国へ訪問することとなりました。

Inje University seoul Paik Hospital

足の外科外来にて 中央 Woo-Chun Lee先生, 右側 嶋洋明先生
写真 1

最初にseoulの明洞(ミョンドン)近くにあるseoul Paik Hospitalに訪問いたしました。 韓国足の外科学会(KFAS)のChairmanであったWoo-Chun Lee先生の手術と外来を見学致しました。

手術では1日13件もの足の手術を行っており、Hintegraという機種を使用した人工足関節置換術1例、低位脛骨骨切り術2例、足関節鏡視下手術2例、Modified Proximal Chevronでの外反母趾手術4例、足関節外側靭帯再建術1例、その他…といった数多くの手術を行っておりました。

Woo-Chun Lee先生は、次から次へと準備されている部屋を渡り執刀されていきます。そして残った皮下縫合や皮膚縫合はFellowの先生方(韓国では日本の専門医の先生にあたる)がおこなっていきます。
また、イメージは日本のように長時間は出しません。ほとんど術者が「Shoot !」と言うと、ワンショットでイメージを出し手術部の確認をしていきます。
われわれは、初日からあまりにもたくさんの手術に驚いてしまいました。 足の外科外来では足底腱膜炎にエコーを使用し診断されている場面もありました。

そして夜は、seoul Paik HospitalのResident、Fellowの先生方といっしょに豚テジの店に行きました。 もちろん豚テジは美味しいのですが、韓国の恐ろしい兵器「BOM」なる飲み物に遭遇します。

燒酒;Sojuをいれた小さなコップをビールがいっぱいに注がれた大きなコップに爆弾のように落とし込みます。そのときにシュワーッと泡と音がでます。そして、それをそのままお互いいっきに飲み干してコップを開けていくのです。それが何度も続きます。チャンポンの連続で悪酔いしないわけがありません。嶋先生も私もどうにか無事にホテルにたどり着くことができましたが、これからはこの飲み物には気をつけようと思わされました。

seoul Paik Hospitalのスタッフの方々には、連れていっていただき、seoul市内の観光や韓国の代表的な演劇である「NANTA」にも連れていって頂きました。
今から振り返ってみますと、seoul Paik Hospitalはシステムがしっかりと構築され、その中で働いているResident、Fellowが次に何をすればいいのか、それぞれの役目をしっかりと認識され実行されていたと思います。
この効率の良さとシステムはわれわれも見習うところがあると実感させられました。

Korea University Guro Hospital

朝早くホテルにKim, Hak Jun先生が車でお迎えに来られ、次の訪問先であるKorea University Guro Hospitalに向かいました。

Guro HospitalではアメリカのMyerson先生のもとで勉強されていたKim, Hak Jun先生が中心となり足の手術を行っておられます。朝のカンファではResidentの先生方が、昨日と本日の手術患者のプレゼンテーションをすべて英語で行っておりました。
なるほど、このようにしてResidentの時から英語での発表をトレーニングしているのかと感心いたしました。

手術室に向かうと、休憩室におにぎりと韓国のり巻きが箱いっぱいに積まれています。病院から手術室のスタッフへちょっとした時に食べられるように提供してくれているのだそうです。ちょっとした病院からの心配りですが、非常にいいアメニティーであると実感いたしました。

Hintegraを用いた人工足関節置換術
写真 2

さて手術では、Hintegraを用いた人工足関節置換術、Modified Brost?m Procedureによる足関節外側靭帯再建術、2nd Toe Freibergに対するCheilectomyなど4件を見学致しました。人工足関節置換術では、いかに骨切の調節でインスタビリティーとバランスの調節を行うといったノウハウを教えて頂きました。

手術の後に時間がありましたので、病院の周囲を散歩してみました。
民家の玄関には白菜がたくさん積まれており、ちょうど1年分のキムチを仕込む準備をしておりました。11月のこの時期は各家庭でキムチ作りが行われるようです。そして、家庭には1年分のキムチを保存するキムチ用の冷蔵庫が必ずあるとのことです。

夜はResidentの先生方と近くのチゲ鍋屋に食事に連れていっていただきました。
ブテチゲを食べさせて頂いたのですが、ブテチゲとは部隊鍋といって朝鮮戦争当時に軍隊の食事用に持ってきていたインスタントの麺とソーセージなんかの加工食肉と野菜を使って、ヘルメットで鍋にしたのが始まりだそうです。
日本でも戦後に様々なB級グルメが生まれましたが、韓国でも同様に朝鮮戦争後にこのようなB級グルメが生まれていたのかと思うと、同じ境遇に親近感を感じました。

Konkuk University Medical Center

Konkuk University Medical Center
写真 3

三番目は、2009 Fall Korean Foot and Ankle Meeting が開催されますKonkuk University Medical Centerを訪問いたしました。
話が脱線しますがKonkukはなかなか読みにくいと思いますが、漢字だと「建國」となります。なるほど、Kunkukが読みやすくなります。

野口先生とも面識のあるJung, Hong-Geun先生が足の外科のチーフをされております。朝早くからのカンファレンスでわれわれは英語で発表を行いました。
発表を無事終えた後、手術の見学となりました。

中央 Jung, Hong-Geun先生  右側 嶋洋明先生
写真 4

手術は外反母趾に対するModified Proximal Chevron + Akin、足関節遊離体に対する足関節鏡視下手術、足根骨癒合症の手術を見学致しました。
韓国では外反母趾の手術では美容的要素に患者さんは欲求が高く、Akinを付け加えることが多いとおっしゃっておりました。また、足根骨癒合症では切除した距踵関節部分に大腿筋膜張筋を補てんして、再癒合・癒着を予防するといった工夫を行っておりました。

手術室内に設備されている食堂
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手術の合間に、韓国の病院ではほとんどの施設に設備されていた手術室内の食堂で食事をとります。普段彼らが食べている食堂の食事がまた美味でありました。

手術後は自由時間をいただき、広大なKonkuk Universityの敷地を散歩した後に、Jung, Hong-Geun先生に夕食へ招待して頂きました。夕食は鴨肉、チヂミなど伝統的な韓国料理をご馳走して頂きました。
Jung, Hong-Geun先生は非常に穏やかで紳士な方であり、われわれはいろいろな韓国の医療のシステムや韓国の習慣などを教えて頂きました。

2009 Fall Korean Foot and Ankle Meeting

2009 Fall Korean Foot and Ankle Meetingでの発表
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Konkuk University Medical Centerを訪問させて頂いた翌日に、2009 Fall Korean Foot and Ankle MeetingがKonkuk University Medical Centerで開催され、われわれも参加させて頂きました。

会場は80人ほどの先生方が、広い会場内にまばらに腰掛けて演題を聴いておりました。
韓国の学会では演者は韓国語で発表し、(スライドは英語)質問を受けたとき、演者は質問に答えずに指導されている先生が、視聴席側から直接質問に答えるといった日本の学会とは少し異なった形式をとっておりました。
私も「Evaluation of Plantar Fasciitis Using a New MR Imaging Method」という演題名で発表させて頂きました。そしていくつかの質問を頂きました。

韓国では、足に対するMRIは保険が通らないために、なかなか検査として使用するのは困難であるということも質問の一つに教えていただきました。

Chonnam National University Hospital

朝3時30分に起き、荷物の準備をして、朝5時20分のKTX(韓国の新幹線)に乗りseoulから南へ2時間45分かけてKwangjuに向かいました。
KwangjuでKTXを下車し、お迎えの車で20分ほどして到着したのがChonnam National University Hospital今回唯一の国立大学病院です。2009 Fall Korean Foot and Ankle Meeting では、偉い先生方がみんな口をそろえて「Chonnam では気をつけろ。」とアドバイスを頂いていたのですが、われわれは何に気をつけるのかさっぱりわからない状態でありましたので、変な緊張感を持っておりました。

Lee, Keun-Bae 先生開発の牽引機
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手術室へ行くとLee, Keun-Bae 先生が手術の準備をされておりました。手術室は、軍隊の訓練のように緊張感が漂っており、Lee, Keun-Bae 先生は軍曹のように厳しい指揮をとられておりました。

2ポータルでの距骨下関節鏡
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手術は、足関節外側靭帯損傷に対するModified Brostöm Reconstruction、モートン病の神経腫切除術、外反母趾に対するModified Proximal ChevronとModified Distal Chevron、Hintegraという機種を使用した人工足関節置換術、そして2ヵ所のポータルを用いての距骨下関節鏡などを見学させて頂きました。
Lee, Keun-Bae 先生はモートン病で神経腫の切除の際にどこまでの神経枝を切除するか、人工足関節全置換術でのバランスの調節の重要性などを細かく教えて頂きました。
また、距骨下関節鏡では、Lee, Keun-Bae 先生が開発された牽引器を使用し、骨間靭帯や関節面を観察しながら滑膜切除を行っておられました。

左から3番目Lee, Keun-Bae 先生 左から4番目 鄭 在潤先生
写真 9

手術のあとは、外来を見学させていただき、Lee, Keun-Bae 先生の恩師でおられる脊椎外科医の鄭 在潤 ( Joe-Yoon Cheung) 先生 とLee, Keun-Bae 先生にKoreanバーベキューに招待して頂きました。
「どうだ、神戸牛のような霜降りだろう!」とまさに神戸牛のような霜降り牛の焼肉をご馳走していただきました。ふと、隣を見てみますとResidentの先生方は霜降りのない肉を食べていました。
韓国でもこういった霜降り肉は人気があって高いものなのだと実感させられました。
手術室では厳しいLee, Keun-Bae 先生も宴会では、紳士な優しい先生に戻り、われわれは、当初から持っていた緊張感もなくなりホッとしておりました。

しかし、本当の「気をつけろ!」はこの後だったのです。

一次会も終わり、鄭 在潤先生とLee, Keun-Bae 先生も帰られ、FellowとResidentの先生方と二次会となりJazz Barに招待して頂きました。
そこで始まったのが「BOM」のオンパレードです。ビールに燒酒;Sojuなんて生やさしいものではありません。
ビールにジャックダニエルというビール&ウイスキーの「BOM」です。

嶋先生も私も友好の酒杯を断るわけにはいかず、すべて友好を交わし飲みましたが、さすがにホテルについたときはお酒に酔い、すぐさまベッドで寝てしまいました。

翌日の朝、昨日の二次会の帰りに「朝8時にホテルのロビーに迎えに行く。」と言っていたFellowの先生がいつになっても現れません。
仕方なく、われわれでタクシーに乗り病院の手術室に向かうことに致しました。

手術の見学を致しておりますと、朝11時頃になってFellowの先生が手術室に出勤して参りました。
それを見たLee, Keun-Bae 先生がFellowの先生を呼び手術室から出て行かれましたが、その後どうなったのかは、未だたしかではありません。

Yonsei University Severance Hospital

ホテルのようなYonsei University Severance Hospital
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Seoulに戻り5番目に訪れたのが、Yonsei University Severance Hospitalです。とにかく設備には驚かされます。
病院内に広いロビーや吹き抜け、そしてショッピングモールのようなエリアも備わっており、まるでホテルのようです。手術室は案内板を見ただけでも大小合わせて38室以上はあり、医療用ロボットであるDa Vinciが3台も配備されております。

午前中からLee, Jin-Woo先生が執刀されるHintegraを用いた人工足関節全置換術、外反母趾に対してのAkinを加えたLudloff Osteotomy、低位脛骨楔状骨切り術、糖尿病性壊疽に対するVAC療法を見学させて頂きました。
人工足関節全置換術では他の各施設の先生方がおっしゃっていたように、やはりバランスの調節を重要視されておりました。

Ludloff Osteotomyは初めて見たのですが、非常に矯正も良好であり、スクリューを使用した固定性も良好のように見えました。
VAC療法では、専門医の先生方がデブリドメントを施行した後、VAC専門のナースがドレッシングを行っておりました。
VACを使用し始めてから肢切断術がかなり減ったとのことでした。

夜はLee, Jin-Woo先生がわれわれを日本の居酒屋へ招待して頂きました。 枝豆、おでん、ちゃんぽんなど…。
ひさびさに和食を食べ、日本酒を飲み韓国料理ばかり毎日食べていたわれわれは、ホッとすることができました。

Inje University Ilsan Paik Hospital

有刺鉄線が張りめぐらされたフェンス
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ソウルから北へ向かい、一般に高所得・高学歴者が多い街として知られている一山ニュータウンにあるInje University Ilsan Paik Hospitalを訪問させて頂きました。

午前中はSuh,Jin-Soo先生が執刀される外反母趾に対するModified Proximal Chevron + Akinなどの手術を見学し、午後はFellowの先生が運転する車で38度線近くまで向かいました。
北朝鮮との境を流れる川沿いに見張り櫓があり、兵士がライフルを持って立っているのが時々見えました。

いっぱいに盛られたうなぎが中央に、周囲には一緒に食べる薬味が配されています。
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ちょうどそのあたりの地域はうなぎ料理が有名とのことであり、有刺鉄線の張り巡らされたフェンスのとなりにあるうなぎ料理屋へ寄っていくこととなりました。
韓国ではしょうゆのような味付けのタレで焼かれたうなぎを生姜スライスといっしょにエゴマの葉で巻いて食べます。
その時にBokbunja Wineという木苺から造られたお酒と食べると格別です。
大変精力のつく食事を頂くことができ、その晩はなかなか眠れない夜となりました。

楽しい交流の毎日ですっかり忘れておりましたが、北朝鮮との緊迫した38度線の近くを訪れる事によって、韓国に来て初めてこの国が直面している現実問題を実感しました。

Ajou University School of Medicine

見学の最終日は、Seoulから南に位置する水原(Suwon)にHan Seung Hwan先生の運転される車で訪れました。
水原は世界文化遺産に登録されている水原華城があります。そしてHan Seung Hwan先生が働かれているAjou University School of Medicineを訪問させて頂きました。

午前中はHan Seung Hwan先生の外来を見学させていただきました。病院の近くには米軍基地があり、たくさんのアメリカ兵とその家族が住んでおり、たくさんの外国人が病院を受診されておりました。
その日の外来でも、足底腱膜炎と診断された兵士が2名ほどおり、処置室ではResidentが足底腱膜炎の患者に対してESWLを行っておりました。

Yonsei Sarang Hospital

午後は、最後の訪問先であり、唯一の一般病院であるYonsei Sarang Hospitalを見学させて頂きました。
Yonsei University Severance Hospital のLee, Jin-Woo先生のお弟子さんであるEui Hyun Park先生の執刀される外反母趾に対してのModified Distal Chevronを見学させて頂きました。
Yonsei Sarang Hospitalは、2年間で外反母趾手術が1000例という驚異的な症例数を誇る病院です。
その症例数には驚かされました。日本も負けていられないぞと思わされましたが、ただ、われわれに現在できることは、新しいシステムを構築する事だけでなく、ひとつひとつの症例をきっちりと丁寧に手術を行っていくことだとも思いました。

右から2番目 Han Seung Hwan先生、右から3番目 Lee, Jin-Woo先生、右から4番目 Eui Hyun Park先生
写真 13

見学の後、日本料理店でYonsei University Severance Hospital のLee, Jin-Woo先生とYonsei University足の外科のスタッフの皆さまが、われわれの送別会を開いてくださいました。
まで2週間かけて見てきた様々なことを、最後に熱く語りあう事ができました。そしてより一層親交を深めることができました。

謝辞

ハードなスケジュールではありましたが, 2009年度JSSF - KFAS Traveling Fellowとしていずれの施設でも大変な歓迎を受け、貴重な経験と親交を深めることができました。

韓国で歓迎して頂きましたWoo Chun Lee先生、Jin Woo Lee先生、Jin Soo Suh先生、Hong Geun Jung先生、Keun Bae Lee先生、Hak Jun Kim先生、Han Seung Hwan先生、Eui Hyun Park先生、韓国足の外科学会のみなさまに、そして、 最後にこのような機会を与えて下さいました日本足の外科学会理事長の高倉義典教授、木下光男教授、田中康仁教授、日本足の外科学会理事・評議員の先生方、 参加のご推薦を頂いた野口昌彦先生、 快く送り出してくださった加藤義治主任教授そして、大阪医科大学と東京女子医科大学整形外科学教室の先生方に心より御礼申し上げます。

医師紹介